海外での水ビジネス成功の鍵はなにか

2010-03-01 13:23

世界が直面している水問題と日本が世界の水ビジネスで勝つために何が必要か。独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が推進している「省水型・環境調和型水循環プロジェクト」の取り組みの目的を伺った。

座談会メンバー

(左から)
松尾友矩 / 東洋大学 常勤理事(工学博士)
山本和夫 / 東京大学 教授(工学博士)環境安全研究センター
岡部忠久 / 独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構環境技術開発部 部長
中村吉明 / 独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構研究開発推進部長 学術博士

What is the key to success in the overseas water business?

Summary
Why does Japan’s water business lag behind that of other developed countries, even though Japan is a world-leading country in water purification technologies? The round-table discussion is about the world water situation and the potentiality of Japanese companies in the water business.

Demand for water is increasing, but as supply is limited, given the uneven distribution of regional water, water issues will become increasingly important. In addition to the problem of demand, water pollution caused by urbanization in developing countries has become more serious.

Japan has superior technology, but falls behind other developed countries in administration of operations. In the future, a special-purpose company may be established, involving engineering companies and trading companies, to develop this industry overseas.

This project of the New Energy and Industrial Technology Development Organization is a feasibility study to develop successful business using Japanese high technology. The feasibility study is a breakthrough, and the future spread of Japanese technology is expected.

深刻化する水問題

岡部 NEDOが進める省水型・環境調和型水循環プロジェクトを通して、世界が求める水循環システムと日本企業の役割を考えたいと思います。まず、世界の水の現状や課題などについてお話しください。

中村 需要と供給で考えれば、水の供給はなかなか増えにくい状況にあります。水源の汚染もその要因になっています。一方、発展途上国においても先進国化に伴って水洗トイレの導入が増加するなど、水の需要が増えて需給ギャップが大きくなっています。
 一方、世界には水の豊富な地域と困っている地域があるように、水は偏在しています。このように、需給ギャップや地域的なアンバランスを考えると、水問題は将来的にはさらに大きな問題になりそうです(図1、図2)。

松尾 確かに水は地域性が強いので、世界の水問題を一言でいうのは難しいのですが、一般的にいうと中国のように工業化が進むと水を多く使う社会になります。その意味で、限られた供給の中で、大きな需要があるという大きなプレッシャーがかかっていて、水循環ということからいえば非常にアンバランスな状況にあります。そのような事情は日本で感じている以上に国際的には深刻化していて、国益をかけた重大な問題にもなっています。

山本 タイの水需要では9割が農業用水に使われていますが、農業は国内総生産(GDP)の10%しか占めていません。つまり水需要の1割の部分で国の農業以外の経済活動を支えていることになります(図3)。都市活動用水の量は少ないですが、量の問題だけで議論しては抜け落ちる部分があって、その水がもたらす効果を考えなければいけないということがあります。
 途上国では都市への人口集中により水質汚濁問題が深刻化し、気候変動の影響ともいわれる渇水や洪水が頻発しています。ベトナムやフィリピンでも、汚染された水が洪水で街中に溢れ出し、感染症のリスクが上昇しています。そうしたことも含めて、貧しい人の健康を守っていくためにも水質を改善することに注目しなければいけないし、都市の活動を考えた時、お金を出させるセクターがきちんと処理して環境に良い水を戻すことが大事ではないかと思います。そこに、日本の水処理の先端技術も十分適用可能だと思っています。

図1 地球の水資源のバランスシート

地球の水資源のバランスシート

図2 水の用途別取水量の推移

水の用途別取水量の推移

タイの水利用量

タイの水利用量

公営と民営のいいとこ採り

岡部 日本は膜ろ過で世界シェアの6割、水道管理では漏水率が非常に低いなど技術的に高いレベルにあります。しかし2025年には100兆円といわれる世界の水市場、特に運営管理部門でなぜ出遅れているのでしょうか。

松尾 日本の場合、水道と下水道は公的な機関が責任をもつということで、運営管理は自治体などがやってきたからです。民間企業はその技術をパーツとして使われ、事業としてトータルにかかわる機会がありませんでした。その意味で、日本の社会的構造が民間の力を育てなかったのではないかと思っています。

山本 日本の場合、公共的な部分が関与しないと運営までできないという現実の中で、海外進出のリスクをどう取るかということがあったと思います。水供給とか水質保全の問題で公的機関がどう関与していくのか、投資した後のリスクをどう取るのかなどを含めて、官と民が一体となって考え、枠組みをつくっていくべきだと思います。

中村 水道事業の民営化と公営化については様々な議論があると思います。公営化での非効率と民営化での市場の失敗という両方の問題があって、そこをうまく調整するためには、最終的に民営でも公営でもなく両方のいいところを採ったPPP(Public Private Partnership:官民連携)といわれるやり方が適切ではないかと思います。

勝てる土俵でチャンスをつかめ

岡部 日本の企業は水市場を取りにいくのか、浄水場などの運営管理なのか、装置やパーツだけでいいのか、どう考えますか。

山本 現実的なのは運営管理でしょう。タイの例では、下水道の全体的な整備などに参入するには制度の障壁もあります。

中村 例えば制度をつくる際、下水を再利用したものを農業用水や工業用水に活用することを義務づけるなど、水のリサイクルを高める条件をつければ日本が参入しやすくなるし、途上国も水の有効活用につながります。海外メジャーの得意な土俵に立って競うのではなく、自分たちが勝てる土俵に変えていくことが重要だと思います。そうすれば、日本が得するだけでなく途上国も得すると思います。

松尾 NEDOのフィージビリティスタディ(FS)に参加して、改めて気づいたのは、日本の高度の技術的ノウハウを生かしてビジネスとして成功させよう、という調査が始まっていることです。これは今までにない画期的な発想で、大変興味深いことだと思います。

岡部 NEDOの水循環プロジェクトの目的は、最先端の技術を開発することと、技術の実証を国内外で実施することにあります。国内1カ所、海外9カ所で、FSが始まっています。フェーズ1から2、3と途中にステージ・ゲートを設けて、ものになりそうなものが最終的なフェーズに進んでいくようになっています。その中から芽が出て、いい先例になってくれないかと期待しています。

山本 日本の先端技術をブランドにして活躍できるような場で、まずは一歩を踏み出していくべきだと思います。世界の都市の中には、水循環のシステムを売ってメンテナンスをしていくという、水ビジネスをつくっていくチャンスがあると思います。

松尾 今回のプロジェクトは、公的なものより規模の小さい工業用水レベルなのですが、きちんと料金を払ってくれるであろうという意味では、確実な収入を見込めます。水質をコントロールして安定的に出さなければいけないという意味で制限は厳しくなると思いますが、そこに日本の技術が発揮できるわけです。
 世界の水問題のニーズに応えるために、日本の先進技術の活かし方はあるはずです。水問題はどんどん深刻になっていて21世紀は水の世紀といわれていますが、実感としてはまだ言葉だけが踊っていて、日本のメーカーにしてももうひとつきっかけがないように思います。その意味で、NEDOの調査グループがいろいろなメニューを出して皆を元気づけられるといいと思います。

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