電池技術が社会に革命を起こす 小久見善八氏
2009-11-20 18:08
二次電池の目覚ましい技術進歩によって、どのような社会が実現できるか。
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)プログラムマネージャーの小久見善八京都大学特任教授に聞いた。

小久見 善八
Zempachi Ogumi
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
プログラムマネージャー、京都大学特任教授
Programme Manager New Energy and Industrial Technology Development Organization.Specially-appointed professor of Kyoto University.
携帯用、コードレスの電源として発展
二次電池の現状についてお聞かせください。
小久見 最近、二次電池が非常に注目を集めていますが、要因の一つに電池の進歩が挙げられます。もう一つは電池の用途が増えてきたことです。二次電池はコードレス電子機器情報端末などになくてはならない電源です。消費電力の小さい電子機器などが二次電池を使ってコードレス化されると、電池の性能向上が図られ、さらに消費電力が大きい機器のコードレス化へと拡大、というように二次電池の発展が始まり、加速されてきました。
携帯用やコードレス機器の電源として高性能化した二次電池は、自動車や車いすなどの移動体用へと用途が開け、また、再生可能エネルギーを大規模に導入するのに必須の蓄電デバイスとして二次電池が注目を集めています。このように、コードレス電子・電気機器、自動車などの移動体、再生可能エネルギーの貯蔵の3用途が二次電池の発展の原動力となっています。
電池性能を示すのに、どれだけエネルギー量を取り出せるか(エネルギー密度)と、どれだけパワーを取り出せるか(出力密度)の二つがよく使われます。コードレス機器や電気自動車のような用途では、エネルギー密度がより重要ですが、ハイブリッド自動車や電動工具用途では、出力密度が重要視されます。
この二つに加えて、寿命・耐久性と安全性・信頼性も重要な特性です。寿命には使用年数と充放電回数の二つの指標があります。大きな電池システムとなる再生可能エネルギー貯蔵の用途では、コストと寿命が重視され、医療や福祉では、信頼性が最優先でしょう。
電池性能のカギを握る基礎研究
二次電池の課題はどんなことでしょうか。
小久見 ニッケル水素電池とリチウムイオン電池は歴史が浅いのですが、完成度の高い二次電池です。後者のリチウムイオン電池は正極・負極・電解質のすべてで多様性があります。現状の黒鉛負極/コバルト酸化物系正極/有機電解液系の電池の完成度が高いのですが、他の電池系が無限といっても良いほどあります。夢のある二次電池系なわけです。
エネルギー密度はずいぶん進歩しましたが、電池だけで車を動かすには、走行距離が全然足りません。1回の充電で受容できる距離を走るためには、電池のエネルギー密度は現在の3~5倍が必要です。リチウムイオン電池のエネルギー密度は、正極や負極の材料を新しくして容器や構造を工夫すれば、 300Wh/kg近くまで向上する可能性があります。それには革新的な正極、負極材料の出現が求められます。また、コストダウンには、電解液やセパレータの革新と製造工程の工夫が必要でしょう。
300Wh/kg以上の二次電池を実現するためには、リチウムイオン電池とは異なる電池系を開発しなければならないでしょう。金属空気電池、全固体電池、多電子移動電極材料、硫黄正極など、いろいろと考えられますが、基礎科学から出発する着実な研究開発が必要だと思います。また、電池はエネルギーの缶詰ですので、高エネルギー密度にして大きな電池を作ると、安全性の確保の面で非常に難しくなるのは当然ですね。
国際社会における日本の技術力についてお話しいただけますか。
小久見 ニッケル水素電池もリチウムイオン電池も最初に市販したのは日本です。日本は二次電池の分野では非常に優れた技術があり、現状では世界をリードしております。しかし、二次電池の重要性が認識されてくるにつれて、日本の技術に追い付け追い越せのかけ声の下、海外の研究開発が非常に活発になってきており、その追い上げが厳しくなっています。技術の流出もありますので、日本の技術力の優位性が今、どれだけあるかは疑問です。
安全性や寿命の面で、わずかにリードを保っているかもしれませんが、海外でも、ほとんど日本と同じ材料・装置を使って電池を作っており、その差は急速に縮まっております。
日本では材料の改良はたくさんありますが、発想の転換といえる材料があまり出てきません。日本は世界でリードしているので、今の技術にこだわるところがあるのかも知れません。このことが電池の革新にマイナスになると困りますね。

2008年国内の電池別販売金額
Secondary batteries account for 85% of the total sales value of batteries
多様な研究と知財戦略
日本がこの分野でリードしていくためには何が重要ですか。
小久見 大学の先生の中には企業との接触が多い方も少なくなく、現行リチウムイオン電池の問題点を大変よく把握しているので、研究課題もそこからかけ離れたものが出にくくなっているかと思います。二次電池で新しいイノベーションを生み出すためには、少し離れた分野の研究者を電池研究に取り込むことが望まれます。しかし、そのような研究者が研究費を獲得することは、一般的に容易でないのが問題なのです。
(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)をはじめ、できるだけ幅広く研究者を結集しようとしていますが、それを拡充してもらうと良いですね。革新のためには幅広い研究分野での密接な「競争と協奏」が必要です。
材料の研究も大切ですが、電池は中でどんな反応が起こっているのか、あまりわかっていません。リチウムイオン電池の正極・負極の材料や電解質にはものすごくバラエティがあります。例えば、ほとんどの遷移金属(*1)の酸化物は正極となる可能性がありますが、それらの中で正極活物質(*2)として使えるものと使えないものがあります。
使える、使えないは何が決めているのか、材料のどこが違うのか、何が問題なのか、そのような基礎研究を進めることが材料の革新の近道になるのではないでしょうか。こういう基礎的な解明を積み上げていけば、強い国際競争力を築いていくことにつながるでしょう。このような研究は外国でもあまり行われていません。チャンスでもあるわけです。
日本が二次電池技術で世界をリードし続けるためには、電池自身か電池を使うシステムかはわかりませんが、他に真似できない技術をこれから構築しないといけません。そして、そのような技術は徹底して守らないといけません。オープンにする技術と自ら確保し続ける技術とを峻別することがこれからは必要でしょう。
7月からNEDOの革新型蓄電池の開発を目指した基礎科学の研究事業が京都大学で始まりましたが、リチウムイオン電池の革新とポストリチウムイオン電池の開発に向けて、幅広い分野の結集が目指されています。産業のコメといわれる二次電池で革新が行われることを期待しています。
*1 遷移金属
周期表で第3族元素から第11族元素の間に存在する元素の総称。多くの遷移金属は酸化物や硫化物の形で地球上に存在するので、単体を得るためには還元しなければならない。
*2 正極活物質
電解質との化学反応によって、電子を放出したり、取り込んだりする物質。電子を出す活物質を負極活物質、電子を取り込む活物質を正極活物質という。
ハイブリッド車の開発に提言

リチウムイオン電池を搭載した世界初のハイブリッド車両。JR小海線を走行する。(写真提供/JR東日本)
二次電池を活用した製品開発、イノベーションについてお聞かせください。
小久見 電池は宇宙開発や深海開発、ロボットなど最先端分野でも必須のデバイスです。また、例えば筋力を補助する装置や、健康状態のモニターなどの医療・福祉の分野でも二次電池が必要です。電池性能の向上とともに応用分野が広がり、その分野からさらなる電池の性能向上が望まれる、という循環になっています。
二次電池の用途拡大のためには、電池だけではなく、様々な周辺・関連技術の発展が不可欠です。例えば、電動車両ではモーターを軽くしないといけませんし、モーターと電池の間のパワーマネジメントシステムや、送電ケーブルが必要です。二次電池を上手に利用するための関連技術分野は広く、また、大きな発展が期待されます。
ニッケル水素電池とリチウムイオン電池が開発されて20年弱、大幅な高性能化を達成しています。低炭素社会を担うキーデバイスとしての期待が高まっている今こそ、二次電池の歴史の中で、大変革の時だと思っています。

2009年7月に発売された
三菱電機の電気自動車「i-MiEV(アイ・ミーブ)」
電池を活用した自動車の技術開発についてはいかがでしょうか。
小久見 プラグインハイブリッド車(PHV)は電気自動車社会を拓いていくためには必要な自動車です。PHVはエンジンと二次電池を動力源としていますが、エンジンの部分を燃料電池に置き換えれば低炭素社会を実現する自動車になります。今、開発が進められている燃料電池自動車は、100kW程度の燃料電池を積んでいます。ところが、車の平均出力は20~30kWです。ある程度大きな二次電池を積んでPHVとすれば、燃料電池は20~30kWの出力で十分ということになります。こうすると、燃料電池のコストはそれだけで数分の1になります。
二次電池と燃料電池はお互いに助け合う関係にあります。エネルギー密度を飛躍させるのにバリヤーが高い二次電池の足りない部分は燃料電池で、逆に燃料電池の弱いところは二次電池が補う。複眼的にみるといろんな技術革新の方向があると思います。
安全性試験センターの整備が急務
二次電池発展に向け産学官の協力体制、それぞれの役割について、ご意見を。
小久見 学が取り組む方向はWHATとWHYで、産はHOWとWHICHでしょう。これを上手く連携させていくことです。二次電池はエネルギー、自動車、素材などいろいろな産業と深く関わりをもっています。これから先、幅広い協力体制を築いて、それぞれのニーズに適した、優れた特性を示す二次電池を開発していくことが望まれます。
リチウムイオン電池は材料一つとっても、評価・試験が非常に難しい。そこで、官の大きな役割が期待されます。産学の協力の下で、正極、負極、セパレータ、電解液、電池容器などそれぞれについて、試験マニュアルを決めて、電池や材料の解析ができる試験センターが必要です。現在、その設置が進められています。また、電池の安全性を確保するためには、電池を燃やすなどの激しい試験が必要です。爆発実験できるところが米国や英国にはあり、フランスにも建設中と聞きますが、日本にはありません。海外に比べると、この点では後れをとっています。大型電池や組電池について爆発実験のような激しいテストができないことには、国際標準や規格を作る上で、海外に太刀打ちできません。ニッケル水素電池にしても、電池をあまり製造していない国に国際標準や規格が握られています。大型電池や組電池の安全性試験サイトができれば、新しい電池材料の開発にもつながります。
Summary
Battery technology revolutionises society
Innovation Courier interviewed Zempachi Ogumi, the programme manager of the NEDO and a specially-appointed professor of Kyoto University, on how secondary batteries will develop in the coming years and what is required for the successful development of secondary battery technologies. A brief summary of his remarks is given below.
Both nickel hydrogen batteries and lithium-ion batteries are secondary batteries with a high perfection level. However, the current energy density of these batteries in connection with the travelling distance must be increased by three to five times in order to develop a real electric car. There are other batteries of which the energy density is higher than that of lithium ion batteries, such as metal-air batteries, solid-state batteries, multiple electron emissive electrodes and positive sulphur electrodes.
An experiment site where explosion tests to ensure the safety of these batteries can be conducted is necessary. As Japan has no such sites, it is difficult to compete with other industrialised countries in the establishment of international standards The establishment of such a site will facilitate the development of new battery materials.
Innovation Courier Vol.4 P4-13より
掲載記事
i-MiEV, JR東日本, NEDO, ハイブリッド, 二次電池, 小久見善八
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