「移動型浄水装置」で世界の渇水地域を救う飲料水供給システム

2008-12-16 16:45

株式会社ベイシティサービス
http://www.bcsad.co.jp/

移動・設置が容易で、コンパクトな浄水装置を開発

日本のみならず、世界中の「水」問題で悩む地域の人々にとって、まさに朗報ともいえる画期的な浄水装置が開発された。

水道インフラが整っていない地域や、干ばつなどで毎年水不足になり困窮する地域、また、大地震などの被災地で生活用水が不足する環境下で、海や川、湖沼などの水からきれいな水を作る移動型浄水装置、名付けて「飲料水供給システム」である。開発したのは食品製造機器メーカーの株式会社ベイシティサービスだ。

自然エネルギーを利用した「エコ発電システム」を搭載
自然エネルギーを利用した「エコ発電システム」を搭載

この浄水装置は、装置ごと、どこでもいつでも簡単に移動させることができる自動車搭載型と、土木基礎工事不要で、据付け工事が一日で完了するコンテナ型の2つのタイプがある。いずれも「すぐ移動・設置ができ、小型でコンパクト」が基本コンセプトだ。

また、コンテナ型には20フィートと40フィートの2つの収納タイプがあり、40フィートのもので、海水の場合、1日の生産飲料水は40t。仮に1人1日5必要とした場合には8,000人分を供給できる。塩分がなければ2倍の80tの飲料水が生産でき、1万6,000人分になる。

では、この装置がなぜ画期的なのか。それにはいくつかの大きな理由がある。

  • 少ない電力で高圧力が得られるロータリーピストンポンプを使用している。
  • ソーラー(太陽光)と風力といったエコ発電システムの自家発電なので、世界の僻地でも電源に困ることはない。また炭酸ガスなどの有害ガスも出ない。
  • 水をRO膜(逆浸透膜)でろ過する前処理に、「納豆菌」(*1)を使用している。
  • 海水を真水に変えたあとの廃水が再利用できる。

*1 納豆菌
納豆を作る菌。近年、水の浄化作用や保水力を持つとして注目を集めている。

横浜市ではロータリーピストンポンプの研究開発に対する助成、および2007年度、2008年度の2年連続で知的財産を活用した経営を評価して横浜価値組企業に認定するなど幅広く支援している。地元企業からグローバル企業への育成や地域経済の活性化を進める上で、同社に寄せる市の期待は大きい。

自然エネルギーを利用したエコ発電システム搭載の「飲料水供給システム」車
自然エネルギーを利用したエコ発電システム搭載の「飲料水供給システム」車

自然エネルギーを利用したエコシステム

海水をRO膜に浸透させて真水を得るためには、非常に高い圧力で海水を押し出さなければならない。そのため、高圧力を出すポンプは非常に大きな電力を消費していたが、今回の移動型浄水装置に搭載されているロータリーピストンポンプは軽量小型、省エネで効率よく高圧を得られるという特徴がある。

「通常のポンプでは、なかなかこのような高圧力を出すことはできないし、電力消費量も莫大なものとなる。ロータリーピストンポンプは押す面積が小さいので、少ないエネルギーで高い圧力を出すことが可能」と話すのは、搭載されているロータリーピストンポンプを開発した同社の生田一誠社長だ。

消費電力を抑えたため、自然エネルギーを利用した「エコ発電システム」を自家発電機として搭載することができた。浄水装置の屋根、そしてその左右いっぱいに羽を広げるようにして伸ばしたソーラーパネルと、2本の風力プロペラを使ったエコ発電を、24時間蓄電できる自家発電システムとして設置している。

自家発電ができるので、いわゆる開発途上国などや、災害でライフラインが崩壊した場所でも電源に困ることはなく、どこででも稼動できる。

さらに、エコ発電なので、炭酸ガスや窒素酸化物といった有害ガスの排出も極めて少なく、地球に優しい無公害な発電システムである。

凝集剤に納豆菌の優れた作用を活用

もう一つの大きな特徴は、水を処理する初期段階で、日本ポリグル株式会社が大阪大学と共同開発した納豆菌を使った凝集技術を活用していることである。

RO膜に水を通過させる前に、その前処理として2回ろ過処理をする。一次処理では、汚泥物質をきれいな水と分離し沈澱させるのが第一の目的だが、その凝集剤として納豆菌を使うのだ。「これまで前処理ではオゾン(*2)を使っていた。しかし、一次処理で納豆菌を使ったほうが画期的に効率がいいことがわかった。ヘドロの処理を大手ゼネコンの多くはオゾンで行っている。汚泥と水がきれいに分離するまでの沈降速度は通常半日かかるところ、オゾンを使用すると約15分で終わる。ところが納豆菌だと、なんと1分しかかからない」と話すのは同社技術顧問の村上圭三氏である。

*2 オゾン処理
オゾンの強力な酸化力を用いて消毒、脱臭、脱色等を行う方法。

一次処理で納豆菌を使うことによって、泥水の汚泥を沈澱させ、同時にBOD(*3)を低減させることもできるという。そして、二次処理でオゾンを使うことによって、一次で処理しきれなかったCOD(*4)やTOC(*5)を低減させることができる。特にTOCは、オゾンから生成されるヒドロキシラジカル(*6)によって低減されると村上氏はいう。

*3 BOD (Biochemical Oxygen Demand)
生物化学的酸素要求量。水中の有機物が微生物の働きによって分解されるときに消費される酸素の量。

*4 COD (Chemical Oxygen Demand)
化学的酸素要求量。水中の有機物を酸化剤で分解する際に消費される酸化剤の量を酸素量に換算したもの。

*5 TOC (Total Organic Carbon)
全有機炭素。水中の酸化され得る有機物の全量を炭素の量で示したもの。

*6 ヒドロキシラジカル(Hydroxyl radical)
反応性が高く、酸化力が強い活性酸素。

「他にもろ過する前の水には、空調冷却水中で増殖するレジオネラ菌や、荒川で見つかったクリプトスポリジューム菌など様々な細菌がいるが、そういった雑菌は塩素滅菌では死滅することはない」(村上氏)。つまり、納豆菌、オゾン、RO膜という、いわゆる化学的処理と物理学的処理を組み合わせたろ過設備でないと完璧な処理にはいたらない。今回開発されたこの複合処理のろ過システムこそ、大きなポイントの一つであると村上氏は力説する。

廃水の再利用価値は大きい

こうしてろ過してきれいな水を作った後には廃水が出る。例えば海水からは30~35%程度しか真水が作れないので、100の真水を作るためには 300の海水が必要である。すべての処理をした後の廃水200は、元の海水よりも凝縮された塩水である。しかも薬剤を使っていないので安全で高濃度の塩水だ。

この塩水の再利用価値は非常に高い。例えばハムや醤油など、食品添加物に使う食塩に利用できるだろうし、女性に人気の高いタラソテラピー(海洋療法)などにも応用でき、その利用用途は多岐にわたるであろう。まさに宝の山だ。

また、これまで海水淡水化装置では、前処理に次亜塩素酸などの化学処理をしているケースが多かったが、このように薬品をまったく使わない安全な廃水を出すということは、廃棄先である海の環境を守るということにつながり、環境問題にも大きく貢献をすることになるのだ。

同システムについて、横浜国立大学大学院環境情報研究院の藤江幸一教授は「異常渇水のみならず、洪水や地震などによっても安全な水の入手は困難になる。このシステムは原水の懸濁物質を納豆菌の成分を活用して除去する凝集と、純水製造能力を有するRO膜を中心とした高度浄水装置である。日常的な利用にはコストが心配になるが、自走が可能であり、太陽光なども動力源として利用できることから、非常時や辺地ではその機動力が大いに発揮されそうである」と語る。

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