挑戦する意欲がイノベーションを生む 黒川清 氏
2008-09-19 15:37
グローバルな大競争時代の中で、先進国はイノベーション政策を強化している。イノベーションとは何か、いま、なぜ必要なのか。

黒川清
政策研究大学院大学教授、内閣特別顧問
ヤマト運輸・小倉さんのビジネス哲学
イノベーションとは「新しい社会的価値の創造」と考えます。技術面のみならず、どのような社会的変革が起きるかを見据えなければなりません。
イノベーターとして、ヤマト運輸の創業者・小倉昌男さんが思い浮かびます。配達者が上で営業所長を下にした同社の組織図からは、お客さんの声が最重要という哲学がうかがえます。どこに需要があるか常に考えながらビジネス展開し、世の中によいこと、正しいことという信念を追究する。このような失敗にくじけない行動をする人こそがイノベーターです。 大勢のみなさんが使っている携帯電話市場に目を移すと、シェア世界1位はノキアで約38%。以下モトローラ13%、サムソン12%、そしてソニーエリクソン10%が続きます。日本企業は14社を合わせてもシェア5%。部品は日本製が60%のシェアであるにも関わらずです。
世界の経済誌では、「iPod、iPhone」のようなヒット製品が、なぜ日本で誕生しないのかが論じられています。 20世紀の産業構造の中心であった本社を中心に世界に展開するビジネスモデルや、一企業内で役職をのぼっていく構図は、日本人の価値観に合っていたのでしょう。しかし、21世紀は情報が国境を越えて横に広がり、人の考え方、産業構造も変わったのに、現在の日本は過去の成功からなかなか変われないのです。
新たな産業構造の中で市場参入しづらい理由を考えるのではなく、可能な方法を考え抜き、一歩踏み出す行動こそが大切なのです。石油産出国のアラブ首長国連邦のアブダビでは二酸化炭素を排出しない街づくりとして「マスダール計画」を掲げ、国の姿勢を明確に示そうとしています。この街づくりに水技術や太陽光発電技術をもつ日本の参加はあると思いますが、計画そのものに招聘されているようではなさそうです。
自分の強みを生かし、弱いところは誰と組めばいいか、世界的視野で把握を

1992年に構築されたWWW(ワールド・ワイド・ウェブ)で、世界は産業革命以来ともいえる社会価値と環境の変革が起こっています。 94年には、アマゾン、ヤフー、ネットスケープなどが出現し、 “人財(ヒューマン・キャピタル)”の考えが広まりました。 “人材(ヒューマン・リソース)”と違い、個人の能力が大きな変革をもたらしうる点が、“キャピタル”と呼ばれる所以です。代表例として、アップル、グーグルなどが挙げられるでしょう。
グーグル創業者のペイジとブリンには「世界をみんなのためによいところにしよう」、さらに「お客さんにはお金を使わせない」という経営哲学がありました。「無理だ」と言う人には何もできません。人間だれしも、意識下でなにか得意なところ、「常識はずれ」でもある“変人”の部分をもっています。 “エキセントリック(偏心)”や“アブノーマル(異常)”ではなく、 “エクストラオーディナリー(突飛)”の意味です。これをどう伸ばし、世に役立てていくかは、社会、組織、企業の課題です。
会社、組織、個人が、自分たちの得意とする“強み”は何かを考えるべきです。逆に“弱み”を隠さないことも大切です。隠しても後でかならず露呈されますから、誰と組めばこの弱点が解決するかを、世界的な視点、つまりスピードをもちつつ把握しなければなりません。
個人(人財)の世界ネットワークをもつ中国やインド

WWWインターネットでつながったグローバル世界では地球環境問題、貧困問題などへと関心が広がり、従来の大量規格製品生産や消費文化とは異なる産業構造、クリーン・エネルギー、都市計画、ソフトウェア、デザインなどグローバルレベルでの多様な要求が高まっています。日本には様々なすばらしいシーズがありながら、高付加価値商品の販売、アイデアやデザイン創出、研究をグローバル世界にビジネス展開する思考力、方法などの点に弱みがあると思います。
いま、いちばん必要なのは、日本の技術を世界に売り込もうと世界を相手に活躍した 60年代のソニーの盛田昭夫さんのような存在でしょう。巨大化した組織ではそうした人物が生まれにくくなってきています。リスクを負ってでも、日本のよいものを世界に示し、広げていかなければなりません。実は世界もそれを求めているのです。
これまで日本のイノベーションは、終身雇用の枠組みで行われてきました。研究、開発、マーケティングを一貫して行うリニアモデル下では「カイゼン」「ジャスト・イン・タイム」「セル方式」などが非常に効果的でした。しかし、世界中が情報通信ネットワークでつながった現在では、「オープンイノベーション、デマンドによって引っ張られるイノベーション」であり、誰もがどこにいてもオーナーシップを取れます。“エスタブリッシュメント(設立)”の手順なく、新しい市場を開発し、事業を展開できるのです。米国でここ30年に設立されたベンチャーの4分の1以上は、中国人、インド人が起業したものです。経済成長の目覚しい中国、インドには起業家の世界ネットワークがあります。会社ではなく個人(人財)のつながりをもつことが、きわめて大事と思います。
また、日本の社会組織は男性中心で、男性の価値観で出来上がっています。しかし、外国人や女性などの、価値観の違う人たちを大いに入れて、組織、社会を活性化していくことも必要です。
黒川 清
内閣特別顧問
- 1967年 東京大学大学院医学研究科修了
- 1968年 ペンシルバニア大学医学部生化学助手
- 1979年 UCLA医学部教授
- 1989年 東京大学医学部教授
- 1996年 東海大学教授、医学部長
- 1997年 東京大学名誉教授
- 2001年 日本学術会議会長
- 2002年 東京大学先端科学技術研究センター客員教授、東海大学総合科学技術研究所教授
- 2003年 日本医療政策機構代表理事
- 2004年 内閣特別顧問、政策研究大学院大学教授
- 活動
- 内閣府総合科学技術会議議員、
- 内閣府沖縄新大学院大学学長諮問委員長、
- 産業構造審議会委員ほか
- 著書
- 「大学病院革命」(日経BP社)
- 「世界級キャリアのつくり方」(共著、東洋経済新報社)
- 「日本の選択 考えるエッセンス」(共著、西村書店)
- 「ハリソン内科学」(監修、メディカル・サイエンス・インターナショナル)ほか
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